僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
1階に着いたエレベーターから降り、ロビーを通り過ぎてエントランスに出る。
住居者やお客さんを迎えるエントランスガーデンは草木花に彩られて、桜はまだ咲いていなかった。
それでも葉を付けた豊かな緑は癒しにも似たもので、満開の桜を想像すれば自然と笑みが浮かぶ。
「俺、車だから」
そう言って駐車場がある方向を指差す祠稀に、凪はあたしと繋いでいた手を持ち上げた。
「はい、バトンターッチ」
あたしの手を差し出した凪に、彗は目を丸くさせる。
バ、バトンタッチって……!
「あたし、管理人さんに鍵返しに行かなきゃ」
てっきり鍵は凪が持って帰るものだと思っていたんだけど……それを口にすることはなかった。
彗はあたしの手を取って、優しく握ってくれる。凪は1歩だけ後ろに下がると、あたしたち3人の顔を見つめた。
「元気で! またねっ」
麗らかな凪の声は空まで突き抜けるよう。
凪の満面の笑顔はあたしたちに伝染して、
「じゃーな。しっかりやれよ」
祠稀が1歩進み、
「……またみんなで、集まろうね」
「次逢えるの、楽しみにしてるっ」
彗と共にあたしも前へ進んだ。
離れる。遠ざかる。だけどきっとまた、近付く。
4人の道は全く別々の道だけど、進んで行けば、想い合えば、また繋がれる気がした。
たった3年。だけど何より濃かった3年間に、さよなら。
ありがとう。
暫しのお別れだけど、優しさを胸に。絆を胸に。名もない光華を胸に灯して。
もう一度逢える、その日まで。
あたしは笑っているよ。
長閑な春の日。穏やかな風が草木を、髪を、心を、静かに揺らした。
.