僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「ただいまーっ」

「あ、ほら。お母さん帰ってきたよ」


玄関から緑夏ちゃんの声が聞こえて言うと、宙は「手伝ってくる!」と元気に廊下へ駆けていった。


――夏。世間はお盆休み。

休みの期間はそれぞれ違うけれど、今日は家族みんなそろっていた。


「凪、昼から病院行くんだっけ?」

「あ、うん。もう出ようとしてたとこ」


パパの問いに返事をすると、「お邪魔します」と場に馴染まない声が耳に届く。


「……」

「ども。こんにちは」

「祠稀くーん! なんで!? 久しぶり!」


いやいやいや……祠稀くーん!じゃ、ないんですけど?


「よお。久しぶり」


そう言って口の端を上げるのは、すっかり学生時代の面影はなくなってしまった黒い髪の祠稀。耳から口に繋がるチェーンも、どこかへ消えてしまった。


「なんで祠稀がここにいるのよ……」

「マンションの前で偶然ねー! 今日逢う予定だったんでしょ?」


緑夏ちゃんが言いながらキッチンへ入って行き、その後ろで宙が小さめの買い物袋を抱えている。


「まぁ、そういうこと」

「何、そういうことって! 今日来れないって言ってたじゃん!」


アポ無しで突然家まで来て、本当に信じられない!


「ねーねー。祠稀くんも一緒にお昼食べてく?」

「あ、もう行くんで大丈夫。またの機会に」


にこりとパパに笑顔を向けた祠稀に、いつからそんな営業スマイルを覚えたんだと思っていると、急に手首を掴まれた。


「は?」

「行くぞ」

「はぁ!? あたしご飯食べてな……ちょっと!」


強制的に引っ張られてるっていうのに、パパも緑夏ちゃんも「いってらっしゃーい」と声をそろえる。


「きをつけてねー」


宙まで! 少しは祠稀っていう人間を疑ったらどうなの!?


そんなことを思っても祠稀は止まってくれなくて、あたしは半ば諦めモードで足を進めた。


歯磨きをする前に玄関へ置いといた鞄を持って、渋々祠稀の後ろをついて行く。


……いつぶりだろ。2年前に逢ったきりかな。

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