僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「教師の仕事、慣れた?」
エントランスに止まっていた祠稀の車に乗り込みながら尋ねると、鼻で笑われてしまった。
「4年目だぞ。ナメんな」
とか言って、彗には「やっと慣れてきた感じ」と話していたのを知ってますけどね。
あたしがシートベルトをすると、車はゆっくりと発進した。
「病院まで何分?」
「20分くらいかなー」
そういえば祠稀の運転する車に乗るのは3回目くらいだなと思いながら、目的地の病院をナビで検索する。
案内が始まったのを確認してからシートに凭れると、昔と変わらない煙草の匂いが鼻を掠めた。
「祠稀さぁ、職員室でもスッパスパ吸ってるんでしょ」
「バカ言え。裏庭でこっそり吸ってるっつーの」
「あはは! 何それかわいそうっ」
「凪こそどうなんだよ。やっと社会人1年生になった感想は」
「うっさいなー。どーせ4人の中でいちばん下っ端ですよ」
けらけらと笑う祠稀だけど、バカになんかしてないことくらい分かってる。
あたしは4年制の大学に通って、卒業後も大学院で2年間勉強した。そうしなければ、夢を掴めなかったから。
その間はひとり暮らしで、レポート提出や研究論文、バイトに追われた忙しい日々。長期休みがあっても中々実家に帰ることができなかった。
日帰りとか、1泊することのほうが多くて、彗たちと逢う機会も滅多になかったんだけど。
寝る時間や遊ぶ時間がもったいないと思ってばかりの6年間は、過ぎてしまえばいい思い出だったりする。
大学院を卒業してからは実家に戻り、早坂先生の下で助手をしながら資格審査を受けて、一次、二次試験に合格。欲しかった資格は無事に交付された。
臨床心理士。
心理関連の資格がたくさん存在する中で、知名度、合格難易度共にもっとも高いとされる資格を有する者。それがあたしの、目指していたものだった。
宙が着ていた白衣は、あたしが勤めてる病院で着てるもの。総合病院の精神科。本当は心療内科がよかったんだけれど、わがままは言ってられない。