僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「あー。あっちいな」
病院の駐車場に着いて車から降りると、祠稀はシャツの胸元をパタパタと扇ぐ。
なんとなくその胸元にネクタイがあるのを想像したら、笑えた。
「しっかし凪が白衣とか……ぶはっ! 似合わねー!」
「……殴られたいのかなぁ?」
「安心しろ。ナース服よりは似合うと思…イッテェ!」
祠稀のふくらはぎを蹴って、「何すんだよ!」という怒りの言葉も無視して病院の中へ入った。
ヒヤリとした空気が肌を撫でるのを感じながら、受付にいた顔見知りの看護師と少し話し、エレベーターへ向かう。
「お前な、ふくらはぎはねぇよ。意外に痛いんだぞ」
「そうなの? ごめーん」
エレベーターのボタンを押しながら、全く心のこもってない謝罪をすると、ガッと頭を掴まれて左右に揺らされた。
「聞こえなかったなー。今なんて言ったのかなー」
「ちょっと、やめて! 吐く! 気持ち悪くなるっ」
「……何してるの?」
左右どころか、ぐわんぐわんと頭を回されていたところに、冷静で落ち着いた声がかけられる。
あたしも祠稀も声のしたほうを見ると紙パックのジュースを持った彗が立っていた。
「おー。偶然。何やってんだお前、こんなとこで」
「……こっちの台詞だよ。祠稀、今日来れないって言ってたのに」
「まぁな。ホントはやらなきゃいけない仕事あったんだけど、やっぱ行くべきだと思っ」
「凪、大丈夫?」
「聞けよ!」
もう、祠稀うるさいっていうか相変わらずウザい。
少しふらふらしながら、ドアが開いたエレベーターに3人で乗り込む。あたしたち以外にも乗員はいて、目的の6階に着くまで口を閉じた。
「彗はいつまで休みなの?」
6階に足を踏み入れて聞くと、彗は歩き慣れた道を進みながら微笑む。
「本当は明後日までなんだけど、颯輔さんが1週間は休めって有休くれたから、甘えることにした」
「ああ……それ絶対、自分のためだね」
呆れたように言うと彗は声を出して笑って、ネームプレートに3人の名前が書かれた相部屋のドアを開けた。