僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「凪! あれ、祠稀もっ!」


あたしたちの姿を見てすぐに明るい表情を向けてきたのは、ベッドに腰かける有須。


「退院おめでとう」

「おー! ちっちぇー……っ」


有須の腕に抱かれているのは、本当に小さな命。


1週間前に産まれたばかりの、彗と有須の赤ちゃんだ。両手を握り締めて、有須の腕の中で眠っている。


「やべぇ……女の子だよな? まじかわいい……」


恐る恐る近付いて柔らかい頬に触れる祠稀は、赤ちゃんと初めての対面。あたしもだけど、写メで見るのと生で見るのとでは、また違った感じだ。


「有須、飲み物」

「あ、ありがとう」


彗が持っていた紙パックのジュースは、有須のために買ってきた物だったらしい。


有須から彗へ渡される赤ちゃん。その少しぎこちない動作はとても微笑ましいものだった。


「祠稀、抱っこする?」

「いや、いい。もうちょいデカくなってからで」


無理ムリと顔の横で手を振る祠稀に、彗は呑気に「そう?」なんて言ってるけど、あたしは彗が赤ちゃんを抱っこするほうがよっぽどハラハラする。


まあ、彗は高校卒業してウチに帰ったし、宙がいたから少しくらい慣れてはいるんだろうけどさ。


「それにしても祠稀がデレデレし過ぎてキモイんだけど」

「バカか。お前見ろよ、このかわいさ。デレるなってほうが無理だろ」

「分かるけど……」


まさかそこまで頬が緩みっぱなしになるとは思ってなかった。


近くにあったパイプ椅子を引き寄せ、腰かけながらそう思う。


「ちっちぇーけど、元気そうだな」

「あは。うん、ちょっと体重軽いけど、大丈夫だって」

「有須に似て、小柄なのかも」


祠稀と、彗と赤ちゃん、有須の4人がベッドに座って、横一列に並んでる。


赤ちゃんの顔を見ながら、笑顔を浮かべながら、話してる。こういう日が来ると、過去に何度想像しただろう。


そのたび幸せな気分になったけど、現実はもっと、もっと、幸福感で満ち溢れていた。


あのマンションを出ていってから8年。あたしたちはそれぞれの道を、確実に進んでいたと思う。
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