僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「アイだよ」
「――……」
彗が言った言葉に、一瞬耳を疑った。
だけど有須があたしに視線を投げかけてきて、言うんだ。はにかみながら、あたしが求め続けていたものを。
「この子の名前は、夢虹 愛」
「凪の家族、増えたね」
彗の言葉をきっかけに、あたしは椅子から立ち上がって彗の足元にしゃがみ込む。
すやすやと眠るお姫さまは、愛と名付けられたらしい。
そっと握り締められた拳の隙間に、人差し指をお邪魔させる。
まだ無理かな、と思ったけれど、何度か軽く動かすと予想外の力で握り締めてくれた。
「……かわいいなぁ……」
君の名前は、愛というんだって。
……女の子だけど、どんな子になるのかな。
明るくて活発な子? 大人しいけど優しい子? 勉強は得意になるかな。運動は人並みかな。反抗期とか、くるのかな?
好きな人ができたり、恋人ができたりするのかな? そんなことに興味ない子になったりもするのかな。
病気しないと、いいな。やっぱり健康で元気に育ってくれれば、いちばんいいかもしれない。
「……愛」
待っていたよ。
逢いたかったよ。
無事に産まれてきてくれて、ありがとう。
君も誰かを、何かを、愛してくれるといい。迷いながらでも、傷付きながらでも、君の愛を見つけてくれますように。そう、願うよ。
流れることなく滲むだけの涙は温かくて、胸の奥に染み込んで溶ける。
「有須のアと、彗のイ?」
そう尋ねると彗は頷いて、付け足した。
「目に見えないものだから、忘れないように」
「……そっか」
命を授かったのは、無事に産まれたのは、ふたりが愛し合ったのと同じに、周りの人がふたりを愛していたから。
彗の両親、有須の両親。パパに緑夏ちゃんに、あたしや祠稀に……他にももっといるだろう。
たくさんの人の愛が支えになっていたなら、嬉しい。
それに気付けない時も、常に意識してるわけじゃないから、忘れてしまうこともあるけれど。
愛し愛されることは当たり前ではなくて、奇跡のような、宝だ。