僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「……ありがとう」


そう呟くと、聞こえたのか、男は背を向けたまま手を挙げて去っていった。


「あの女、全然金落とさねぇ」

「マジあいつ死んでくんないかなぁ~」

「1回3万でどうかな?」

「今なら安く手に入るよ」



雑踏の中から聞こえる音楽と、聞きたくもないのに耳に入る会話の節々。思わず眉をしかめてしまったことに気づいて、再び歩き出す。


……自分では、充分汚れた、生きるに堪えがたい世界を見てきたつもりだった。


でも、俺の世界があるように、ここに集まる人たちにもそれぞれの世界があるんだろう。


否定したいわけじゃない。非難したいわけじゃない。でもなんだか、この街は気持ち悪い。


すれ違う人、すれ違う人。喜びか怒りのどちらかの顔をしている。たまに、無表情の人もいるけれど。


みんな、とてもシンプルな表情をしているのに、個々の感情が強すぎる気がする。


空気がよどんでる。

そう、感じた時だった。
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