空をなくしたその先に
「団長がそうおっしゃるのなら、引き返しましょう。

国王陛下には団長が腹痛を起こしたので、と報告しておきますから」

「腹痛かよ」

ビクトールは苦笑いする。
言い訳は何でもいいのだ。

この出撃をやめることさえできれば。


「んじゃ、他の部隊にも帰ると連絡を入れてくれ。

しきり直しだ」

「わかりました」


サラは、他の部隊に通信を送るために船内に入った。

食堂の中をのぞきこむと、ヘクターとダナが向かい合ってコーヒーを飲んでいる。

見つめあう眼差しに迷いはない。

カップを持っていない方の手は、互いの指先に絡めている。

在りし日の彼女の両親を思いだして、サラは微笑んだ。

彼女の両親も、よく出撃前にはこうしてコーヒーを飲んでいたものだ。

< 113 / 564 >

この作品をシェア

pagetop