空をなくしたその先に
ダナは前方の座席に飛び乗ると、キーを差し込んだ。


「お願い!
子どもだけでも連れていって!」


幼い子どもを抱えた若い母親が、子どもをダナに差し出す。

ダナは冷たく切り捨てた。


「もう人を乗せる余裕はないの」

「何とかならない?一人だけでも」


よけいな口をはさんだディオは、目を覆うまで引き下ろしたゴーグルごと、鋭い視線で射ぬかれた。

ディオは口を閉じた。


「あたしが命令されたのは、
あんたの救出だけよ」


ダナはキーをひねった。

勢いよく、垂直に機体が飛び上がる。


「安心なさい。落ち着いて。
船員の近くに行くの。
すぐに仲間が救助にくるから」

下に言い聞かせると、ダナは機体を動かした。

空中から、勢いよく前に飛び出る機体。

風に目を叩かれて、ディオは瞼を閉じた。

息ができない。
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