空をなくしたその先に
王家の紋章入りの通知書を、ビクトールは口角を下げて睨みつけながらひらひらとふった。

今までにも、何回か申し出はあったのだが、傭兵は地位や家柄にはしばられない、と断ってきた。

今回は、受け入れるつもりでいる。

そうサラに言うと、首を傾げて微笑んで見せた。


「あなたの考えていること。

なんとなくですがわかるような気がします」

「そう言ってもらえるとありがたい」


貴族の位を受ければ、このクーフだけではなく地上にも領地を得ることになる。


「ダナが空に戻りたくないと言い出した時に、行き先がないと気の毒だからな」


それだけ言うと、ビクトールは王家からの封書をテーブルの上に投げ出した。

まだ、彼女が生き延びることができるかどうかなんてわからない。

医師からの手紙にも、五分五分どころか助からない可能性の方が大きいと記されている。

それでも、できるだけのことをしてやりたいと願ってしまう。
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