空をなくしたその先に
「ひっぱたくって言ったら平手かと思ってたよ」


この場に不釣り合いなほどしみじみとした口調で、ディオは言った。


「顔は堪忍してあげたんだから、感謝してほしいくらい」


ひっぱたかれるような真似をしなくてよかったと、
心の底からディオは思う。

確かにすぐ近くに他の人の体温を感じるのは、悪夢を追い払うのには役にたったけれど。


「まだ触ってない!」


フレディの抗議は、二人の間で黙殺されたのだった。

完全に。


「あの人朝まで飲んでいたでしょ」


昨夜は一睡もしていないのだと言い残して、

自分の寝室に消えていくフレディを見送って、
ダナはしかめっ面になった。


「王族とか貴族とかお金持ちってみんなあんななの?」

「いや、彼は特殊だと思うよ?」


返しながらディオは思う。
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