空をなくしたその先に
「彼女の名前はイレーヌ・カーマイン。

そう言えばここがどれだけ安全な場所かわかるだろ」


フレディが口にしたのは、このあたりで活動している武器商人の名前だった。

一番目が利くとされているのは、空を行く船に積むための武器。

イレーヌが女だてらにこの商売を始めたのは、

同じく武器商人だった夫が殺された後を継いでのことだという。

復讐心を商魂に変えたのか、もともと商才が豊かだったのか。

夫が死んだ時にはまだ二十代に入ったばかりだったという彼女は、

めきめきと頭角を現し、

あっというまにマーシャル一の武器商人にのぼりつめた。

三十代に入る頃には、夫を殺害した人物を見つけだし、

身の毛もよだつような報復を行ったという噂もまことしやかにささやかれている。

それを聞けば、この屋敷の厳重な警備も理解できた。

武器商人を恨む者は多い。
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