空をなくしたその先に
イレーヌが医師を送り出すために、部屋を出ていく。

それと入れ違いになるようにダナが顔をのぞかせた。

頭には包帯を巻いて、頬には大きなガーゼが張られているのが痛々しい。

そんな彼女の様子を気遣うことなく、

性急にフレディは、
ダナにとってはつらいであろう名を口にした。


「ヘクター・ヴァンスを知っているか?」


ダナの顔から一気に血の気がひいた。

目を閉じ、黙って首をたてにふる。


「二人で話せないか?」


そうフレディは言うと、ディオを残して部屋を出た。

ディオが制止する暇もない。目の前で扉が閉じられる。

ほんの一瞬迷って、フレディは自分に割り当てられた部屋にダナを押し込んだ。

そこはダナの部屋と大差ない作りだった。

客室は皆同じような作りになっているのを

何度かこの屋敷に泊まったことのある彼は知っている。
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