空をなくしたその先に
「ハーリィとオリガの娘、
ダナ・トレーズというのは君のことか」


押し込められるなり、両肩をつかんでたずねられた。

ダナは一つ、うなずく。


「全く俺ときたことが、何で気がつかなかったんだよ。

ヘクターから何度も写真を見せられていたのにな」


乱暴にベッドに腰を落として、フレディはうめいた。

ヘクターの名を聞いて、ダナの視線が床に落ちた。


「あの頃とは……あたしの顔、変わっているし……。

何度か……整形しているから」
「そうか」


フレディは顔をあげた。


「つらかったな」


その声音は、知り合ってから一度も聞いたことがないほど優しいもので、別人のようだった。

「……消毒薬の臭いは今でも嫌い。

病院にいた頃のことを思い出すから」


床に言葉を投げつけるように、彼女は言う。

つらかったなんて、口にするのは甘えだ。

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