空をなくしたその先に
つらい、痛い、苦しい。

ヘクターは全てを感じることができなくなったというのに。

そんなことを口にはできない。

「君にはつらい話になるかもしれない。

それでも……聞くというのなら話す。

彼から預かっている物があるんだ」


目を見開いたダナは、唇をかんだ。

病院にいる間も、退院してクーフに戻ってからも。

胸の奥底におしこめていた彼の名前。

ヘクターの父であるビクトールでさえも、

彼の名前はダナの前では口にしようとしなかった。

唯一口にしたのは、脱出したあの時だったような気がする。


「……教えて」


口にするまで、ずいぶん長い時間がかかったように思えた。

押し込めようとしていた過去と対峙する瞬間。

ダナは息を飲んで、フレディの言葉を待つ。


「わかった」
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