空をなくしたその先に
「なんだかね、すごく自分が薄情な気がするの。

昨夜はヘクターからの預かり物を、フレディが渡してくれて。

一晩わんわん泣いたっていうのに、今日はわりとけろっとしているんだもの。

食事が喉を通らないなんてこともなかったし」

「薄情なんかじゃないよ」


ディオの口調は揺らぐことがなかった。

海の上にいた間、同じ疑問を彼自身も何度も繰り返していたから。


「僕だって、研究所の皆のことがあったって、しっかりご飯は食べているよ。

ものすごくショックを受けたはずなんだけどな」


まだ、現実のこととして考えられていないのかもしれないともディオは考えている。

今の状況が、あまりにも日常からかけ離れていて。

無事に帰り着いて、何もかもがすんだその時に、改めて衝撃を覚えるのではないかと。

だからといって、王都に戻らないというわけにもいかないのは十分承知しているが。

どちらからともなく伸ばした手が、相手の手を探り当ててそっとつながれる。

そのまま二人は黙りこんだ。

つないだ手だけが、互いの体温を伝えている。
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