空をなくしたその先に
「俺が相手をできないのは残念だよ」


立ったまま、グラスの中身を空にした。

一気に空けたグラスをテーブルに戻して、フレディはイレーヌを見る。


「メリッサって言ったか?メイド一人借りるぞ」

「私のメイドを寝室に引っ張りこまないでくださいと、お願いしたはずですけれど?」


正面から視線を合わせた彼女は、唇をゆがめた。


「いくら俺でも、それ以外のことを考えることもあるって」


フレディの耳打ちした言葉に、イレーヌは承諾の意を伝える。


「必要にならなければいいんだ。念のためってやつだよ」


肩をすくめて、フレディは部屋を出ていく。


静かに閉められた扉に、イレーヌはもう一度グラスを掲げてみせた。

綺麗に紅を施された唇が、緩やかに両端を持ち上げる。


「旅の無事を祈って」


閉まった扉の向こう側から、返ってくる言葉などなかった。
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