空をなくしたその先に
「『守ってやりたい』と思ったのは初めてかもしれないな」

「珍しい言葉を聞きましたわ」


年下の愛人を眺めるイレーヌの顔に、嫉妬の色はまったくない。


「俺も柄じゃないと思う」


一瞬だけ真摯な表情になったフレディは、すぐにいつもの顔を取り戻した。


「しょせんは片想いってやつだ。

ヘクターの存在がでかすぎるしな。

俺は気楽な恋の相手を探すとするさ」

「大人も大変ですわね」


同情心などかけらも見えない口調でイレーヌは言うと、

お茶のお代わりを頼むべくベルを鳴らした。

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