空をなくしたその先に
宿に入ってからはダナは、姿を見せなかった。

ルッツも自分の部屋から出てくる気配はなく、通された部屋でディオは一人ぽつんとしていた。

ディオに与えられた一室は、宿の中でも上等の部屋のように思われる。

顔がじりじりと痛んだ。

我慢できなかったらという口上とともに渡された薬を、

テーブルの上に用意されていた水で流し込んで、ディオはベッドに倒れ込んだ。

睡眠作用もある薬だと医者は言っていたが、眠れそうにない。

ベッドの中で何度も寝返りをうつ。

訪れかけた眠りに身をゆだねようとしても、
あの男の最後の姿が目の前に浮かんで飛び起きる。

そして、両の手を確認する。

何度確認しても、もう血のあとなど残っていない。

シーツに手をこすりつける。

研究所の仲間たちが全員殺されたと聞いたあと、同じようにうなされていたディオを助けてくれたのは彼女だった。
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