空をなくしたその先に
「眠れませんか」


ビクトールの表情は、いつになく老けて見えた。


「ビクトールはどうしてここに?」


その問いに答えることなく、ビクトールは立ち上がるとグラスをもう一つ運んでくる。

椅子の向きを元にもどしてディオに勧めた。

渡されたグラスに琥珀色の液体が注がれ、ディオは用心深く、そのグラスに口をつけた。

かなり強い。

一口飲んだだけで喉の奥が焼かれるようだった。

ビクトールの方は、グラスを一気にあおっても表情を変えることもない。

平然とした顔で空になったグラスをテーブルに戻し、もう一杯注ぐ。

「いつになく思い出すのですよ、息子のことを」

ビクトールの口元が、自嘲の形にゆがんだ。


「二年前……だったよね」

「ご存じでしたか」

ビクトールは拳を握りしめる。
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