空をなくしたその先に
ビクトール自身、二人の発見時には昏睡状態にあったからその様子を直接見たわけではない。
ダナを責める気などない。

責める気などないが。

重傷をおった身体で動き回らなければ。

あるいは先に自分を手当していれば。

もう少し早く発見できていれば。

仮定の話が頭から離れない。

二年たった今も。

思いをふりはらうように、ビクトールはグラスの中身を一気に空にした。

「夜中に一人で飲むと辛気くさくなっていけませんな」

笑う。

笑ってみせる。

数時間後には、二人を送り出さなければならない。

戦場の空へと。

だからビクトールは笑って見せる。


「飲み過ぎると逆に眠れなくなります。

それを飲んだら、お引き取りください」


ビクトールはあけたグラスを置いて立ち上がった。

ディオに一礼して、食堂を出ていこうとする。

入り口でふりかえった。


「殿下……無理はなさいませんよう」


わかっているよ、とディオは口の中で返した。
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