空をなくしたその先に
「そのレース、スタートラインに立つ以前の話ですよ。

そのことは周知の事実でしょう」


ビクトールの言葉に、ディオの胸が痛くなった。

誰でもいいわけじゃない。

ディオが手を取りたいのは、一人だけだ。

それが許されないことなのはわかっていても。

だから、一度だけ伝えようと思っていたのに。

「誘拐なのか、事故に巻き込まれたのかどうかはともかくとして、行方不明ってことだな?

イレーヌの手も借りてみる。

カーマイン商会の情報網なら何か見つかるかもしれん」


あわただしくフレディが出ていく。

ビクトールも続いた。


「僕は?」


部屋の入り口から、ビクトールはふり返る。


「殿下はお気になさいませんよう。

ダナごときのことで政務に影響を及ぼしてはなりません」


ビクトールの言葉が胸に刺さった。
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