空をなくしたその先に
くだけた格好の他の旅客たちと違って、
きっちりとネクタイを締めた上に上着も着込んでいる。

本当はもう少し楽な格好をしたいのだが、
上着を脱ぐことさえ不安でしかたない。

託された機密書類を無くしてしまいそうで。

部屋に戻っても、寝間着に着替えることすらなく過ごしてしまいそうだ。

手すりにもたれて目を細める。
船底につけられたプロペラが風を切る音が響いてくる。

頭の上では、帆を固定したロープの端がぱたぱたとしている。
空の航海ははじめてだった。
主に金銭的な事情で。

ディオの生家から、
大学のあるセンティアの王都までは海路で一週間程度。

列車で十日以上かかる。

それでも空を使うよりははるかに安上がりだ。

甘えるなと言った両親は、
最低限の旅費しか出してくれなかったため、
今までの往復にはその時の懐事情に応じて船か列車を使っていた。
< 5 / 564 >

この作品をシェア

pagetop