空をなくしたその先に
沈黙に支配された時間は、意外なほど短く過ぎ去っていった。
いつの間にか意識を失っていたのか、ダナが気がついた時には、

縄で作った擦り傷の手当は終わっていて、包帯が巻かれた上からもう一度縛りなおされていた。

誘拐されたというわりには、扱いは比較的丁寧だと思う。

誘拐された経験がそれほどあるわけでもないから、あくまでも聞いた話との比較になるが。

ベッドに拘束されていた腕は、今は身体の前で交差されているだけだ。

白い包帯の上に巻きつけられた縄は、妙にうきあがって見える。

逃げようと思えば、逃げられるのかもしれない、が。

妙に身体が重くて、そんな気力もない。

最後に取ったのは朝食のはずなのに、夜明け近くなろうかという今も空腹を感じることさえない。

自分の身体は普通の状態ではないのだと、ぼんやりした頭で思う。


「身体、重いだろ?」


起きあがろうとベッドの上でもがくダナに手を貸しながら、フレディは謝った。


「逃げられないように、薬を打たせてもらった。

自分で歩くことはできるだろうけど、逃げようなんて思わない方がいいぞ。

今の俺は、君を殺すことにだってためらいはないんだからな」

「殺してしまったら、人質の意味がないじゃないのよ」


自分の声が、別人のもののように遠くから聞こえる。


「その時はその時さ。別の手をうつ」


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