空をなくしたその先に
昼間は前国王との別れを惜しむ国民たちが次から次へと花をたむけにやってくるのだが、今はひっそりと静まりかえっている。

花束がそこかしこを覆いつくしている安置所の中は、いっそう空気が冷たかった。

花束を遺体が安置されているケースの上に載せ、ろうそくに火をともす。

膝をついて、両手を組み合わせ、祈りの体勢になった。

今から自分がしようとしていることを、この人は許してくれるだろうか。

戦争が終わっても設計書を処分しなかったのは、埋葬時に一緒に棺に入れるつもりだったからだ。

快く送り出してくれた父への最後の手向けとして。

設計書はセンティアから戻ってきた技術者ディオ・ヴィレッタの手によって完成されたと表向きは発表されている。

その後彼は、パイロットとともに乗り込んだ戦闘機が爆発、炎上。

行方不明といいつつ、事実上死亡ということになっている。

いくら対外的にとりつくろったところで、設計書を欲しがる人間が身近なところにいたのでは意味がない。

ディオは膝をついた姿勢のまま待った。
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