空をなくしたその先に
「僕だって……兄みたいに……」


ダナの肩に、ディオの手が食い込んだ。

お洒落で口がうまくていつも女性に囲まれていた彼。

ああなりたいと、ああはなれないとわかっていながら、憧れていたというのに。


「殿下、これ以上あなたにできることはありません。

王宮へお戻りください」


三人の様子を遠巻きに見守っていたビクトールが、ディオとダナを引きはがした。


「おまえは病院だ。ちゃんと診てもらえ」


フレディのコートとマフラーに包まったままのダナを軽々と抱えて歩き出す。

その後ろ姿をディオは黙って見送った。


警察がカーマイン商会の船に乗り込んだとき、残っていたのはイレーヌ・カーマインただ一人だった。

雇っていた部下たちに責任はないのだからと、全員逃がした後なのだと、悪びれず告白する。

「終わりましたのね」


最後にそれだけ言うと、手錠をかけやすいように手を前に出した。

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