空をなくしたその先に
「ずいぶん思い切ったことをしたもんだな」

フォルーシャ号の甲板の上、せっせとブラシをかけているルッツとダナの前に、ビクトールが三日遅れの新聞をつきだした。

受け取って紙面に目を走らせたダナは、何も言わずに髪をかきあげた。

以前は短く切りそろえられていた赤い髪も、今は顎のあたりまで伸びている。

王位継承権を放棄した王子が、センティアへと出発すると書かれた記事の扱いは小さかった。


「気になるか?」


視線をそらせたダナに、ビクトールはにやりとする。


「明日の夕方の汽車で出発だそうだが……どうする?」

「……」


フレディが銃口を頭に向けたあの夜。

ダナはディオを残してその場を離れた。

伝えたいことは山ほどあったはずなのに。

肝心のことは、心の一番底に封じ込めたままで。


「行ってこい。あれから一度も会ってないだろ?」


はじかれるようにダナがブラシを放り出す。


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