空をなくしたその先に
「まだ掃除の途中!」


走り去る後ろ姿に叫ぶ、ルッツの言葉も聞こえていないようだ。

「ビクトール様、余計なこと言わないでくださいよ。

せっかく俺といい雰囲気だったのに」

「俺の目にはそう見えなかったぞ。

さっさとそれを終わらせて、ティレントまでついていってやれ。

あっちに車は用意しておく」

「ビクトール様って鬼だ」


文句を言いながらも、ルッツは手を忙しく動かし始める。

子どもの頃から知っている彼女。

ヘクターと一緒にいた頃の輝くような笑顔も覚えている。

退院してクーフに戻ってきたばかりの頃の、作ったような表情も。


この半年見てきて、確かに以前とは変わったと思う。

彼女が再び未来を見られるようになったのならいい。

ティレントまでつきそうくらいなんてことない。


「そうだろ、ヘクター?」


勢いよくブラシをかけながら、ルッツは彼の名を呼ぶ。

彼もそう思っているであろうことを、ルッツは確信していた。
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