空をなくしたその先に
駅のホームにかけこんだダナの視線の先に見えたのは、生真面目な横顔だった。

小さめの鞄を一つ下げただけの身軽な姿。

季節は春になろうとしているとはいえ、冷たくなり始めた夕方の風に、コートの裾があおられる。


「ディオ!」


ダナの声にびっくりしたようにディオはふり向いた。

柔らかな笑みが顔にうかぶ。


その表情が、以前とは違っていることにダナは気がついた。

以前は感じられた線の細さがなくなっている。

何か一つ乗り越えて……、まさしく大人になったといった雰囲気だ。


「来てくれたんだ」

「……やせた?」


最初に言わなければいけないことは、こんなことではなかったはずなのに。

彼女の口から出てきたのは、ありふれた言葉でしかなかった。
少しね、それだけ口にしてディオはダナを見つめた。

「ずいぶん思い切ったことをするって、ビクトール様が言ってた」


視線を合わせるのが気恥ずかしくて、ディオのつま先に目を落としながらダナは言う。

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