空をなくしたその先に
「なんでわざわざセンティアへ?

あなたに対する風当たりきついでしょうに」


ディオも研究員の一員であったことは、少し世事に通じた人間なら知っている。

事前に研究所を離れていたのは、別の事情があったためとはいえ、世間の見る目は厳しいと言えるだろう。

たとえ全財産を遺族へ渡したとしても、それだけでは償いにならない。

そう言われても仕方ない。


「石投げられるかもね、僕」

「石投げられるだけならいいけど、あなたの頭の中にはまだあの……研究が残っているのでしょう?

殺されてしまうかもしれないじゃない。

王宮にいれば安心なのに」


ディオの口元にうかぶ笑みが、苦い物に変わった。


「でも、そうしなければならないと思ったんだ」


最初はひたむきな探求心だったはずだ。

その方向性がずれさえしなければ。

ずれた代償はあまりにも大きすぎた。

失われた命の数を数えることなんてできやしない。
< 542 / 564 >

この作品をシェア

pagetop