空をなくしたその先に
ディオは固辞したが、元王子に必要以上に貧しい生活を送らせるわけにもいかないのだ。

汽車の旅も個室を一つ確保してもらっている。

座席について、ディオは窓をあけた。


「ディオ!」


めざとくディオの姿を見つけて、ダナが走りよってきた。

手を伸ばして、窓越しにディオの首に手をかけ、自分の方へと引き寄せる。

今度のキスはもう少しだけ長かった。

発車のベルの音が二人を引き離す。


「好きだよ……ダナが」


ようやくディオの口から出た言葉。


「会えなくなる直前に言うのって卑怯よね?

それに、そういうのって、普通はキスする前に言うんじゃないの?」


返ってきたのは口元にひらめく勝ち気な笑み。

続くダナの言葉は、汽車の轟音にかき消された。

ディオは窓から身を乗り出した。

最後に聞こえたのは、ただ彼の名を呼ぶ声。

大きく手をふるダナに、ディオも手をふり返した。

姿が見えなくなるまでずっと。
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