空をなくしたその先に
まだ一口しか飲んでいないコーヒーと学生を残して、ディオはあわただしく研究室を後にする。

新聞を手に握りしめたまま。

一度自宅に戻り、荷物をまとめて乗りこもうとした船の名を見て苦笑した。

メレディアーナ号。全てが始まったあの船と同じ名前だ。

大学を卒業して三年。駆け出しとはいえ、一応は学者として認められつつあるところだ。

叔父からの援助ももう受け取っていない。

裕福とはいえないが相部屋になる三等客室ではなく、一人で一部屋を使う程度の余裕もある。

たしか船内に髪を切る場所もあったはずだ。

久しぶりの帰郷の前に髪を切っておこうと、ディオは理髪室の場所を確認した。
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