空をなくしたその先に
甲板を行き来する乗客の衣装一つとっても、
ファッションにうといディオの目にさえ高価な品だとわかる。

これがこんな事情でなかったら。
初めての空の旅をもう少し楽しめただろうに。

胸の秘密書類。
父の病状。
気にかかることが多すぎる。

ディオは風に乱された髪をかきあげた。

航海が終わるまで、数日の旅程だ。

何事もなく、ティレントに到着することを願うしかない。

そんなディオの願いは、
即座に打ち消された。

警報が鳴り響く。


「空賊だ!」


乗客の一人が、空を指さす。

点のように見えている黒い影がみるみる大きくなって、
メレディアーナ号にせまってきた。

海賊も多数存在するが、空賊も多い。

乗客の大半が裕福な人間であることを計算すれば、
海より空の方が効率がいいとも言える。

飛行機を用意するだけの事前投資ができれば、の話だが。
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