893〜ヤクザ〜
わしはまだ組長さんを見た事がなかった。映画で知る限り組長というものは確実に恐いもの。フルスモークのベンツから降りてくる組長のまわりを数人のボディーガードが辺りを睨みつけて歩く。



これが組長の定義。



「組長さん何しにきはるんですか?」



「タコ焼きの生地に卵を入れてないか見に来るんや。」



「卵?卵って毎朝、若が仕込みしてる時、生地に入れてますやん。」



「親父には意味不明なこだわりがあってな、タコ焼きに卵を入れるのは邪道言うんや。卵を入れて美味そうに膨らむのは当たり前。せやからそんな小細工を使わずに焼くのが匠やとか訳の分からん事言いよる。」



「そうなんすか……。」



「あぁ、卵なしの生地を鉄板に流して焼いたらどうなるかわかるか?」



「どうなるんすか?」



「今晩、厨房に戻ったら卵抜きの生地作ったるし、お前一回焼いてみぃ。明日、親父来るし、お前も一回焼いてみといた方がええ。」



「はぁ……。」



いまいち若の言ってる意味が分からんかったが、とりあえず夜卵抜きタコ焼きを焼いてみる事にした。
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