893〜ヤクザ〜
その晩、厨房に帰り、洗い物が片付いた頃、若が生地を作り始めた。



卵抜きの生地――



ただ卵を抜いただけなので、多少は膨らまず小さなタコ焼きになるだろうけど、まずくはないだろうと思っとった。



「よっしゃ。」と言い、若は鉄板に火をつけ、わしにピックを渡した。ピックとはあのタコ焼きをつついてひっくり返すあれ。



わしは普段通りタコや天かす、キャベツを投入し焼色が付くまでじっと待った。



だが何分経っても、ふちの色が変わらない。卵を入れている時とは明らかに違う。

ひっくり返すタイミングも分からない。



「そろそろ回してみろ。」



若はそう言ってニヤッと笑みを浮かべた。



(何やあのいやらしい笑顔は……)



わしはピックを手に取りひっくり返し始めた。
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