893〜ヤクザ〜
「帰ってきたら兄貴、頭(若頭)に出世でっかな(笑)」



「いや頭の席はおやっさんが空けとくはずや。まだおやっさん、稲田はんが戻ってくる思てるからな。」



稲田さん――

聞いた事がある。

昔、市川組の若頭を務めていたイケイケの男。

だが姐さんに嫌気がさし、自ら小指を詰めて組を出て行った伝説の人。



「もう稲田はんは西条の枝(他団体の傘下)で頭補佐にまでなってはるからなー。うちとの復縁はないやろに。」



「ほな奥田の兄貴どうなりまんねやろ。」



「さぁな。」




わしは話を聞きながら、極道というまだまだ未知の世界にただ首を傾げるだけやった。
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