《短編》くすんだ鍵
「こっちはお金もらってるって意味ではプロだしね。」


「すごいですね、尊敬しちゃいます。」


人に甘えるような顔と口調。


こういうタイプの女は一番苦手だ。



「琴音ってね、そういうこと素直に言えるから俺はすごいと思うよ。
人に対して尊敬してるとか、普通はなかなか口には出せないもん。」


あたしの前で、ミツは彼女を褒めて笑った。


いつもあたしに向けられていたものは全て、まやかしであったかのように。


そんな顔をして、優しい瞳で、こんな女になんて触れないでよ。


せめてあたしの目の前でだけは見せつけないでほしかったのに、



「さすがは俺のカノジョって感じじゃない?」


今度は得意げに同意を求められた。


生き地獄のようだ。


どんどん醜い感情に支配されてる自分がいて、そして勝手に苦しくなってる。


出来ることならこの女にカレー入りの皿を投げ付けてやりたいし、いっそミツに嫌われてしまえば楽なのに。


なのにそんなこと、出来るはずなんてないから。



「ミツのノロケはウザいんだってのー。」


「はいはい、カレシがいないアンナさん、ごめんなさーい。」


茶化す言葉さえも棘として刺さる。


手足の先はすでに熱を失っていて、また凍えて死んでしまいそうになる。


もしもあたしが今いなくなったら、ミツはここでこの女と暮らすのだろうか。


なんて考えているあたしは、やっぱり馬鹿でしかないのだけれど。

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