《短編》くすんだ鍵
一方的に途切れた通話。


優心がいなくなったって何の問題もないとすら思っていたのに、身勝手な喪失感に支配される。


辛い時にばかり助けられていたのに、最低なだけのあたし。


いつの間に、こんなにも悲しむほど、アイツを大切に想うようになっていたのだろう。


これで良かったはずなのに。


なのに今は、ミツと優心を秤にかけられない自分がいる。








翌日、ミツからあの女とヨリを戻したのだと報告された。


セフレでも良いから、と言えば、何かが変わっていただろうか。


けれどあたしは、笑顔を作って「おめでとう。」としか言えなかった。


もう、ミツに執着する気力すら失い、当然だけど同じ家で過ごすことすら苦痛に感じ始めていた。


今まで優心が傍にいてくれたから、あたしはこの人を想っていられたんだ。


どうして失わないと、そんな大切なことにすら気付けないんだろう。


ミツもまた、罪悪感からなのか、あたしを避けることが多くなった。


気付けば何にもなくなっていた。


ただ、手の平に残ったのは、ふたつのくすんだ鍵だけ。


この部屋のものと、優心の部屋のものだ。


あの幸せだったはずの時間は簡単に壊れてしまい、過ぎた日々ばかりを思い出す。


願うのは、どちらの笑顔なのか。

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