《短編》くすんだ鍵
「うわー、今日唐揚げじゃん!」


食卓に料理を並べると、ミツは心底嬉しそうに顔をほころばせた。


その様子はどこか子供のようで、優心なんかとは大違いだと思ってしまう。



「俺さぁ、しみじみ思うんだけど、マジでアンナと暮らして良かったよなぁ、って。」


「ちょっと、褒めたって何も出ないよ。」


なんて言いながらも、喜んでいるあたしはやっぱり馬鹿だ。


ミツはビール片手に上機嫌のまま、



「でも、これならどこにでも嫁に出せるっつーかさ。」


向けられた笑顔に心が軋む。


正直な話、あたしはイベントコンパニオンの事務所に在籍していて、見た目に自信がないわけではない。


それでもミツは、あたしを同居人以上には見てくれないのだ。


中学生でもないのに、まさか21になってから片思いに胸を痛めるなんてね。


けれどもう純真なんかじゃないあたしは、いつも苦しくなる。


どうして女として見てくれないのだろうか、と。



「じゃああたし、ミツのお嫁さんに立候補しちゃおうかなぁ。」


「ははっ、今度は勢いで入籍かよー。」


冗談のように笑い飛ばしてしまわないでほしい。


何の不満もない暮らしだけれど、でも一番欲しいものはいつだってあたしの手の中にはない。


本当に寒いのは、11月の気温なんかじゃなく、この心。


いつの間にか冷めてしまったテーブルの上の唐揚げのように、灯された熱なんてすぐに引いてしまうから。



「ねぇ、それよりカノジョとはどう?」

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