《短編》くすんだ鍵
ミツはあたしとルームシェアを始めた頃、ちょうど同じくらいの時期から、一個下の子と付き合い始めていた。


プリクラで見た限りでは、あたしなんかとは真逆で、どこか幼さの残る可愛い顔。


だからまぁ、この男はどれだけあたしと一緒に暮らしてようと、カノジョを裏切るつもりなんかないのだろう。


それがまた悔しいのだけど。



「別にいちいち報告するようなことなんかないっつの。」


「じゃあ、順調ってこと?」


「まぁ、そんな感じかな。」


ビールをちびちびと飲みながら赤い顔で言うミツは、まるで照れているみたいだ。


傍目から見ていても、この人が本当にカノジョのことが好きだというのは、簡単に伝わってくるから。



「やだもう、ノロケないでよねー。」


「お前が先に聞いてきたんだろ!」


小突かれて、笑った。


笑っていなければ苛立ちをぶつけてしまいそうになる。


残念ながらあたしは、打ち破れて泣けるほど綺麗な心は持ち合わせてなんていないから、だからいつも、見えない位置で拳を作るのだ。


早く別れれば良いのに、なんて念を込めながら。


馬鹿で、最低なだけのあたし。



「あ、俺明日飯いらないから。」


「え、どうして?」


と、聞くべきではなかったのに、



「デートですから。」


ズキリ、とまた心が軋む。


どうしてあたしは、いつまでもこんな想いを抱えているのだろう。

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