《短編》くすんだ鍵
「ねぇ、カノジョのどこがそんなに良いわけ?」


聞くと、んー、と首を傾けた彼は、



「優しくて、ふわふわしてて、ちっちゃくて、守ってあげたくなっちゃうような。」


思い出すように優しい顔で、ミツは話す。


酒に酔っているのか珍しく饒舌に、その子のことを教えてくれた。



「アイツ、俺のことすごい好きなんだって。
毎日メールくるし、こういうのを幸せっていうんだろうなぁ、みたいな。」


「………」


「だから俺としては、早くアンナにも幸せが訪れてほしいと思ってるわけだよ。」


ミツに願われることほど悲しいことはない。


愛想笑いだけを返すと、



「ほら、お前は美人なんだし、選り好みするから悪いんだって。」


「けどあたし、好きでもない人となんて付き合う気ないし。」


「ほぇー、何か意外!」


そりゃそうだ。


だってあたしはミツのことを好きになって初めて、そういう気持ちを知ったのだから。


でも一方で、優心と繋がっていることもまた事実。



「でもきっと、そういうアンナに好かれてる男は幸せ者なんだろうな。」


カノジョと幸せなミツは感嘆したように腕を組んでうんうんと頷く。


頷いてから、頑張れよー、と頭を撫でられた。


無邪気なその手に触れられて、けれどやっぱり悲しくなった。

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