《短編》くすんだ鍵
逃げ場所はいつも、優心の部屋。


なんとあたしは、カノジョでもないくせに、ここの鍵まで持っているのだ。


だから嫌になったらすぐに逃げてきて、今じゃ一体どちらがあたしにとって本当の家なのかがわからなくなる。



「あぁ、来てたんだ?」


当然のようにリビングでお菓子を食べていると、明け方に帰宅した彼は酒臭い。


けれど、大して驚くでもなく、優心は上着を脱ぎ捨て、煙草を咥えた。



「鍵くれたんだし、あたしが勝手に使ったって文句ないでしょ。」


「俺はスペアの鍵を失くすと困るからお前に預けただけで、使えなんて一言も言ってねぇけどな。」


嫌味な男だ。


スカした顔で言って、彼はあたしからポッキーの一本を奪い取った。



「夜中にこんなもん食って太ったら、事務所クビになんじゃない?」


「うるさいなぁ。
今はもう朝だし、あたしは太らない体質だから良いのよ。」


「あーっそ。」


普段の優心は、驚くほど淡白だと思う。


ベッドの中では甘い顔をするが、そういうギャップがきっと、女を虜にしているに違いない。


まぁ、きっとセフレなんて、あたしだけじゃないのだろうし。



「ったく、顔は良いのに性格悪ぃんだから。」


「アンタに言われたくないし。」


と、言ったところで、虚しさは募る一方だ。



「優心に褒められたところで、ミツのタイプじゃないなら意味ないんだよ、あたしは。」

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