美女の危険な香り
 それは千奈美が若き社長夫人になったことで、余計なプレッシャーが掛かるんじゃないかということだった。


 だが、俺はそこのところも幾分達観(たっかん)している。


 そこら辺にごまんといる二十代女性よりも断然情愛溢れる千奈美なら、きっと分かってくれるはずだ。


 確かに五千億円の年商を誇る今井商事はれっきとした大企業で、海外の商社との多額の取引もある。


 そこのトップの人間の夫人になるのだから、心身ともに疲れに悩まされることもあるにはあるだろう。


 ただ、俺は優紀子との満たされない生活に辟易していた。


 それにもう耐えられないとも思っていたのである。


 これから先、今井商事を回し、切り盛りしていく上で、俺は千奈美との結婚生活に全てを賭けるつもりでいた。


 たとえ、周囲がどう言おうと……。


 ひとまず正月が明けたら、社内の幹部会の席上で、大磯グループと香原財閥の株を買い取ることを正式に決める。
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