美女の危険な香り
 確かにご飯ぐらいは自分で炊けるのだが、その後が続かない。


 学生時代はご飯があれば、後はスーパーや弁当屋から惣菜などを買ってきていた。


 俺自身、こうやって今一人になり、学生時代の一人暮らしを思い出す。


 あの頃は心身ともに若かったので、同じ学部学科の連中と朝まで飲み明かしたりもしていたし、寂しさを感じたことはまるでなかった。


 だが、もうかれこれ十年以上前の話である。


 俺も正直なところ限界を感じていた。


 社長室では淡々と書類に目を通しながら、昼は脂のたっぷりと乗ったステーキなどを食べ、夕食時になると六本木の街で食事するのだ。


 たまには千奈美とも一緒に。


 俺は彼女との結婚生活を夢見ていた。


 言い方は悪いのだが、たまたま今月中に離婚届を出そうと思っていたので、優紀子の自殺は何かと都合がよかった。


 そして俺は春が来る前に千奈美と一緒になるつもりでいる。

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