美女の危険な香り
 オリオンは南中していた。


 俺は星に千奈美をオーバーラップさせ、愛情を注ぎ入れながら、ゆっくりと歩き続けた。


「いらっしゃいませー」


 間延びしたウエイトレスの声が、ファミレスに入った瞬間、聞こえてくる。


 俺は座席に座り、メニューを見てからトンカツ定食を一つ頼んだ。


 これから新しい生活が始まることを感じ取りながら……。


 漠然と思っていることがある。


 優紀子の不倫相手だった猪原誠は、果たして何か言ってくるだろうか……?


 浮気していた相手が自殺という最悪の形で死んだことを悔やみに来るだろうか……?


 俺自身、そこのところがまるで見当が付かない。


 誠の態度が。


 正月から堂々と人様の家で妻を寝取ったのである。


 常識外れもいいところなのだ。
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