美女の危険な香り
第27章
     27
 俺はトンカツを食べながら、合間に付け合せの汁物を啜る。


 味噌汁ではなく、吸い物だった。


 ホントならビールを頼んでもいいのだが、その日だけはなぜかしらアルコールを含む気になれない。


 妻が死んだ直後なのに、食事がやけに美味しいのは、やはりどう考えても皮肉なのだった。


 俺は食事を取りながら考える。


 いかにして優紀子の葬儀で取り繕うかを、だ。


 俺自身、取り残された夫として、喪主の役目を果たす義務があった。


 それはいかに普段から忙しい身でいる俺でも分かる。


 香原財閥と大磯グループの株式買い付けを断行し、今井商事を刷新(さっしん)するのだから……。


 両グループを吸収すれば、各々から一人ずつ若手の優秀な人間をヘッドハンティングして、社の中枢に置く。


 そして社を改革するつもりでいた。
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