美女の危険な香り
 俺はコーヒーがテーブルに届くと、口を付けて啜り取る。


 濃いカフェインが意識を覚醒させた。


 一瞬前と違って目が冴え始めると、伝票を持ち、ゆっくりとテーブルを立つ。


 そしてレジへ向け、歩き始める。


 今は一OLに過ぎない千奈美がいずれは社長夫人となるのだ。


 しかも世界をまたに掛けた大財閥の。


 俺はやがて来る新たな結婚生活に向け、準備をするつもりでいた。 


 とりあえず今夜眠ったら、明日は優紀子の遺体が置いてある病院に行き、葬儀の手筈を整えてから、初七日と四十九日の法要が終わるまでは、千奈美とケータイで連絡を取り合うことにする。


 プレッシャーはあった。


 優紀子の葬儀と火葬、納骨、そして千奈美との新婚生活……、目の前にあるのは緊張感を伴うものばかりだ。


 だが、俺は社のことも、これからの自分の人生のことも真剣に考えるつもりでいた。

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