美女の危険な香り
 俺は不思議と涙が出ない。


 やはり生前からいがみ合っていたからだろう、俺自身、優紀子の死が単なる連れ合い同士のいずれは通る道だと思っていた。


「今晩付き添いますので」


 俺があくまで形式的にそう言い、都内にある葬祭場に葬儀の連絡を入れてもらえるよう、ドクターに頼む。


「了解いたしました。では明日早速当院からご遺体をお運びして、ご葬儀の日取りをお決めいたします」


「ありがとうございます」


 俺が頷き、もう一度優紀子を見た。


 死に化粧がやけに目立つのがやはり感じられた。


“最悪の終わり方だったな”


 俺は優紀子の遺体を見ながらそう思う。


 首の周りには吊ったことで出来た傷が付いて残っている。

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