美女の危険な香り
 持ってきていたノートパソコンを使いながら……。


 もし引越しとなれば、目黒の今の部屋からは完全撤退である。
 

 言い方は悪いのだが、俺も古女房との生活に飽きていたのだし、この際、人間の体内で血液が絶えず循環し続けるように、いい巡り会わせを期待していた。


 俺は千奈美との生活に対し、幾分不安はあったものの、しっかりやっていくつもりでいる。


 優紀子との満たされない結婚生活の二の舞になるのだけは避けたいと思いながら……。


 優紀子の葬儀が執り行われたのは一月の末だった。


 さすがに香原財閥の一人娘が首を吊って死んだのだから、財界からはたくさんの人間たちが通夜と葬儀に参列していた。


 俺は何気ない風で、穏便(おんびん)な喪主を勤める。


 心の中ではペロッと舌を出して笑いながら……。


 これが最低最悪の結婚生活の辿る末路(まつろ)だったんだとも思っていて……。


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