美女の危険な香り
 俺も千奈美も空車のタクシーを横目に見ながら歩いていく。


 ホテルから職場までタクシーで十五分ぐらいだが、近距離だったし、何せ朝一だったので、運動がてら歩きにした。


 俺は慌しい街を歩きながら、千奈美に、


「腹減らないか?」


 と鎌を掛けるようにして訊いてみる。


「うん、まあね……」


「この近くに美味い朝食が食べられる店があるんだ。そこで食事でもどう?」


「あたし、お腹空いてないんだけど、仕事に行くまでに時間があるから付き合うわよ」


「じゃあ、君はコーヒーだけでもいいから、俺に何か食わせてくれよ。腹減ってるんだ」


 俺はさすがに胃に何も入れてない状態でオフィスに行くのが躊躇(ためら)われた。


 毎朝、大体自宅では朝食を取らずに、通勤途中で軽く食べているのが俺の実情だ。


 何せ自宅マンションには優紀子がいて、少し老眼が入り始めたのか、軽い度の老眼鏡を掛けながら新聞を見ている。
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